鍼灸修行①左手
G先生に弟子入りしてから大学はほとんど行かずに鍼灸院でバイトをしていた。
実際、鍼灸院で働いてみるとメチャクチャ忙しかった。
なんせ1日200人近く患者さんが来るのである。30台ほどのベットは空くことがなく、患者さんで常に埋まっていた。
G鍼灸院に来ている患者さんを見ていると、肩、腰、膝の痛みから内臓疾患、奇病、難病、リウマチ、ガンなどさまざまな患者さんがいた。
また、ほとんどは近所の人だが、遠方から来ている人もいた。
働きだして最初1番困ったのは、患者さんの名前が分からないということであった。
先生に「〇〇さん、これをやって!」と言われるが名前が分からない。
「〇〇さーん!」と探しているうちに
先生から「△△さん、次はこれ!□□さんはこれ!」と言われ、息も忘れるほどの忙しさ中、次から次であり、最初はあたふたするばかりであった。
そんな鍼灸院の仕事だったが、少し慣れた頃に先生から
先生「これから1ヶ月は食事や字を書くのは左手でするようにしなさい。」と言われた。
私「左手ですか?」と答えると
先生「鍼灸でもマッサージでも、左手も右手と同じように使えないとダメだ!左手が不器用なままだと鍼は打てない。」
と言われた。
私は先生の言うままに、その後1ヶ月は左手で食事、字を書くようにした。
最初は食事するにも時間がかかり、食べにくくて仕方なかったが、徐々に慣れ1ヶ月もするとそれなりに使えるようになった。
文字を書くのも同様で、最初は書けなかったが1ヶ月もすると下手だが書けるようになった。
左手が使えるようになると面白くなり、1ヶ月を過ぎても右を使ったり、左を使ったりしていた。
当時は練習の真意も分からず言われるままに左手の練習をしたが、鍼を打つようになり左手の重要性が分かった。
鍼を打つ際、右手は鍼を持ち鍼を打ち込むが、左手はツボの場所を特定し鍼をしっかり固定する役目がある。
左手が鈍いとツボの正確な位置が狂ってくる。また、しっかり鍼を固定できないと鍼を刺す時の痛みにつながる。
なるほどG先生の言ってた事はこれだったのかと数年後に分かった。
また、後に柔整(整骨院)学校の柔道大会で右肩を脱臼し1ヶ月ほど右手が不自由な時があったが、その時は左手でノートを書いていた。
それを柔整学校の先生が見て
「あれ、お前、左利きだったの?」と聞かれ
「鍼の修行で左も使えるようになりました。」と答えたら、「へー!」と驚いていた。
つづく。