鍼灸修行(18) 東京迷子
G鍼灸院は都内の下町にあり、先生はもっぱら原付バイクで往診をしていた。
下町は小道が多く、車だと通りにくくかえって原付バイクの方が便利なのだ。
ある日、私はG先生に買い物を頼まれた。
先生「バイクで20分くらいだから行ってきて。」
私「いや、バイク乗ったことないんです。」
先生「自転車は乗れるだろ?同じだよ」
私「そうなんですか?」
先生「大丈夫、大丈夫」
ということで、簡単にアクセル、ブレーキを教わって買い物に出ることになった。
原付バイクは、地元の田んぼ道を友人のを借りて1回だけ乗った事があった。
しかしほとんど経験なく、今考えるとかなりのむちゃぶりだったと思う。
しかも都内の交通量が多い入り組んだ道だ。
しかし、G先生のいいつけを断れるわけもなく、しかたなく行くことにした。
乗ってみると確かに難しくはなかったが、なんせ道もよく分からない交通量が多い東京、不安しかなかった。
行きは教えられた道を行き、とりあえず到着できた。
買い物を済ました帰り道、いつのまにか行きと違う道を走っている事に気づいた。
あれ?おかしいな?と思い「勘」で方向を変えて走ったのだが、下町独特の入り組んだ小道に入ってしまい方向感覚が全く分からなくなってしまった。
分からないまま走っていると、いつのまにか大きな橋に出て川を越えてしまった。
別の区に来ちゃった?と、明らかにとんでもない場所を走ってるのに気づいた。
このまま走っていても帰れないと悟り、人に聞き聞き走り、結局1時間ほどかかって帰ってきた。
とりあえず事故もなく無事帰れて来れてホッとした。
土地勘もなく、慣れない東京で乗ったこともないバイクでちょっとした冒険だった。
そんなハラハラドキドキの買い物は、先生お気に入りのラーメン屋さんのテイクアウトだった(笑)
帰りに時間がかかり伸びてしまっていたと思うが先生は何も言わずに
「やっぱりここのは美味いな!」
と言って食べていた。
それは先生の優しさなのか、単に気づかなかっただけなのかは不明である。
つづく。