鍼灸接骨院(11)鍼往診
鍼灸接骨院で働いている頃、祖母に
「親戚のお婆さんが、膝が痛くて歩けないから鍼灸をして欲しい」
と言われ、治療に行くことになった。親戚といっても、今まで全く会ったことがないお婆さんであり、家はそれほど遠くなく、車で15分ほどの距離であった。会ったこともない人に鍼灸をするのは初めてで、少し緊張しながら行ったのを覚えている。
お婆さん家は、ある駅のすぐ近くにあり、そこでお婆さんは自転車置き場をしていた。そこは猫とお婆さん、一匹と一人だけしかいなかった。
そしてお婆さんは、膝が悪いため駐輪代を受け取りに行くのに時間がかかり、自転車を停めてるお客の中でお金を払わないで帰ってしまう人が多かった。
私が様子を見ていると、「すいませーん!」とお客さんに言われても、膝が悪い為、お婆さんはなかなか出ていけない。お客さんは、少しは待つが、出てこないとそのまま帰ってしまうのだ。
お婆さんは、「停めてるやつらの半分しか金を払わねー。」と怒っていたが、特にお金に困っているようでもなく、なんとなくその光景がユーモラスにも見えた。
その家で飼われている猫は、外に出たら危ないからと首輪をされて、5m位のひもで柱に繋がれていた。猫は、一日中、同じ半径の円の中をぐるぐるしていて、その為、猫の周りだけ絨毯がはげていた。なんだか少し猫が可哀想な気もしたが、餌が食べ放題らしく、よく太っていた。
そんなノホホンとした感じの所なので、よく近所の猫好きな主婦やお年寄りがよく集まって、猫話に花を咲かせていた。
それから、お婆ちゃんの家に週に一回ほど鍼灸治療をやりに行くようになり、3回目くらいに行った時に、猫好きの近所の奥さんがいて、鍼灸治療を見ていて、
「友達が足が痛くて、どこにいっても治らないみたいで、今度、一回みてもらえないかなー。」 と言い、
軽い気持ちで「いいですよ。」と言ったら、次の週に本当に友達が来ていた。
膝から足首あたりが痛いらしく、「足を地面に着くのも痛い」と言っていた。特に関節などに異常はなく、神経痛の一種かなと思い、とりあえず師の鍼灸の真似をして自分なりに一生懸命治療した。
次の週に行くと、先週治療した人も来ていて、「あれから嘘のように痛くなく、びっくりした。」と言い、さらにその人の友人を2人連れてきていた。
また次の週にいくと、また1人増えていて、一気に5人になった。
師が一日大勢、鍼治療するのを普段見ていたから、「5人くらいなんでもないや」と思っていたら、意外に時間がかかり、疲れた。
つづく